訪問記(2012年1月20日)
〜世界で唯一、実物を見ることができる原発〜
日本国際法律家協会事務局長 笹本 潤
@2012年1月20日、マニラのあるルソン島の西海岸にあるバターン原発(Bataan)を見学した。
首都マニラから約80kmのところにある。
東京と福島の距離よりも近い位置に原発があるわけだ。
フィリピンに原発が導入されたのは1964年。
IAEA(国際原子力機関)がマルコス大統領に建設を勧めた。
その後、73年のオイルショックを機に建設が始まったが、79年のスリーマイル島の原発事故で工事が中断。
86年にはチェルノブイリの事故が起き、マルコス政権も崩壊したので、ピープルズパワーで誕生したコラソン・アキノ大統領が原発の閉鎖を決断した。
それ以来、施設の閉鎖が続いている。
一度導入した原発の燃料もドイツに売却して、今は設備だけが残っている。
Aバターンの原発は、福島原発と違い原子炉の中で水を沸騰させない「加圧水型」原発だ。
左がバターン原発、右が福島原発。
Bバターン原発の見学は、建設当初からの作業員のレイナルド・プンザランさんが詳しく説明してくれた。
写真は建設が始まった当時の写真。福島原発の開発時に同じような写真を見たことがある。
C写真が外から見た使用済み燃料プール。
D原発の仕組みは、原子炉での熱い温度で水を沸騰させ、その蒸気の力でタービンを回し発電するというもの。使われた蒸気は海水で冷やされ再び蒸気発生器に循環されて使用される。福島原発と違って原子炉内に水が入ることはない。蒸気発生器から出てきた水が海水によって冷やされる配管がたくさんある部屋。巨大なパイプを見ることができた。
E格納容器の中に入るためには、2重になっている厳重な扉を通過する。
Fいよいよ格納容器の中に。正面に見えるのが、原子炉本体。移動用のクレーンからの撮影のため少し見えにくい。
G手前に見える針状に下から突き出ているものが制御棒。その上に見えている銀色の輪に、原子炉をクレーンで移動しておく予定だったという。
Hベント用に水素を外に抜く穴がある。壁には水素コントロールと書いてある。
I使用済み燃料プール。水は入っていないが、四角い管に使用済み燃料が
100本単位で入っている。それがさらに何十本集まって、水の入るプールに入れられる。
人を載せるクレーンで真上まで行って、見たところが右の写真。
J単位となっている四角い管を近くから見たところ。
ここに直径数センチの燃料棒がたくさん入るとのこと。
K原発が稼働していないから中央制御室にも入ることができる。
しかし、再稼働もあり得るから、今でも厳重な管理が行われている。
Lこれがタービンと発電機の図。ここで原子力が電気に転化する。
手前が発電機。奥の四角のものがタービン。
Mバターン原発の設備はすべてウエスティングハウス社製のもの。
N発電施設の窓からは海が見える。こんなに海と近いのだ。
津波対策はどうなっているのか。
O事故時の放射能の飛ぶ範囲。現地のNGOが作成したマップだ。
50km拡散した場合。 200km拡散した場合。
マニラまで全部放射能で覆われることになる。
P1980年代に閉鎖が決まったバターン原発だが、今でも導入の動きは続いている。説明してくれたレイナルドさんも、安全性を強調していて、ちょうど帰ろうとしている時に政府の役人も現地に来た。日本人には特に福島原発との違いを強調して、原発の安全性を強調しているようだ。
私たちは、使われるかもしれない「本物の原発」を見ることができた。福島の経験からすると、こんな恐ろしいものを再開させてはなるまい。現地のNGOもさらなる監視と運動が必要だと訴えている。
(バターン原発訪問記・2012年1月29日記)